2007年9月、安倍晋三政権が崩壊しました。わずか1年間の政権でしたが、教育界に与えた影響はとても大きいものがあります。前半は、愛国心教育の導入や教育の国家管理を狙いとした「教育基本法改正」問題で教育界は混乱し、12月の同法改正後の通常国会では、改正とセットとなる「教育三法(学校教育法、地方教育行政法、教育職員免許法)」案が十分な審議もないままに成立しました。
この安倍政権が残した「教育再生」法案の基本は、結局のところ日本の教育を混乱させ、学校から生気を失わせていくだけではなかったか。そして、このまま放置していけば、日本の教育や学校はこれまで以上にゆがみ、変質していくのではないか――私たちは、このように危惧します。
2007年の学校教育法の改正によって、これまでの教頭、主任に加えて、新たに副校長、主幹教諭、指導教諭という職制が導入されました。それによって、教師組織は〈校長―副校長―教頭―主幹教諭―指導教諭−教諭〉という、序列・階層化された体制へと変質させられました。教員は校長とその意を受けた上司から監督、管理、指導・助言を受けることになります。このように上からの管理を強める体制で、はたして教師は子どもの最善の利益のためにほんとうに良い教育活動ができるのでしょうか。
また教員免許法などの改正によって、10年間で教員免許が失効し、30時間の講習を受けなければ免許更新させない制度が成立しました。世界にも前例のない、「一部の不適格教員」排除のための教員免許制度が成立したのです。10年間しか通用しない免許にしておいて、はたして教育に情熱をもった人材が確保できるのでしょうか。教師に対する保護者や市民の信頼を回復させられるのでしょうか。
私たちは、このような疑問を抱きつつ、これからの教育再生の道はどうあるべきか、どうしたら日本の子どもと学校が元気を取り戻し、教育の再生をはかれるのか、ということについて提言を行い、市民論議を進めていきたいと考えました。そして、その第一歩として、2007年12月、岩波新書より藤田英典編『誰のための「教育再生」か』(執筆:藤田英典・尾木直樹・喜多明人・佐藤学・中川明・西原博史)を刊行しました。
もちろん、私たちが考える「教育再生」への提案は、いわゆるトップダウン型の改革ではありません。誰かが優れた提案をしたからといって、日本の教育が直ちに良くなるわけではありません。どんな教育「改革」も、子どもの成長のために日々直接子どもと向き合っている保護者、教師など教育当事者の意思やニーズが反映されなければ、そしてなによりも彼らの支持がなければ成功しないと考えます。学びの主体者である子どもたち、学校やその他の場で教育を支えている様々な職種の人々、学校や地域を支えている市民、NPO(非営利市民活動団体)などの人たちの合意と熱意、協力があってこそ、改革は実効性あるものになっていくのです。
|